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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1169号 判決 1966年6月23日

主文

1  控訴人らの本件訴訟を棄却する。

2  引受参加人は被控訴人に対し、原判決添付目録記載の宅地について大阪法務局天王寺出張所昭和三九年一〇月二三日受付第三〇、八六八号の所有権移転登記の抹消移転登記手続をせよ。

3  当事者参加人の請求を棄却する。

4  当審における訴訟費用中、控訴によつて生じた費用は控訴人ら及び引受参加人の負担とし、当事者参加によつて生じた費用は当事者参加人の負担とする。

事実

昭和三七年(ネ)第一、一六九号事件について、控訴人吉原ひろ、同吉原一、同吉原節子、同吉原和子、同吉原志津枝、同速見千枝子は、「原判決中同控訴人ら関係部分を取消す。被控訴人の同控訴人らに対する本訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴人西畑隆夫は、「原判決中同控訴人関係部分を取消す。被控訴人の同控訴人に対する本訴請求を棄却する。同控訴人と被控訴人との間において、同控訴人が原判決添付目録記載の宅地について五、一七四分の一、三五〇の持分を有することを確認する。訴訟費用は本訴反訴を通じ第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。控訴人前田義一は、「原判決中同控訴人関係部分を取消す。被控訴人の同控訴人に対する本訴請求を棄却する。訴訟費用は本訴反訴を通じ第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人の同意を得て、同控訴人の被控訴人に対する反訴請求を取下げた。

控訴人前田義一引受参加人兼当事者参加人(以下単に参加人ということがある。)は、昭和三九年(ネ)第一、四四〇号事件について「原判決主文第二、三項を取消す。被控訴人の控訴人ら(控訴人前田義一を除く。)に対する請求を棄却する。当事者参加人と被控訴人と控訴人前田義一との間において、当事者参加人が原判決添付目録記載の宅地について五、一七四分の一、八〇〇の持分を有することを確信する。当事者参加によつて生じた訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人は、昭和三七年(ネ)第一、一六九号事件について「控訴人らの本件控訴を棄却する。引受参加人は被控訴人に対し、原判決、添付目録記載の宅地について大阪法務局天王寺出張所昭和三九年一〇月二三日受付第三〇、八六八号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。控訴費用は控訴人ら及び引受参加人の負担とする。」との判決を、昭和三九年(ネ)第一、四四〇号事件について「当事者参加人の請求を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、つぎに付加するほか原判決も事実記載と同一(但し、原判決三枚目表末行の「六月三一日」を「六月二一日」と、同裏九行目から一〇行目の「七月一〇日」を「七月七日」と、四枚目裏五行目から六行目の「履行の準備に着手」を「履行に着手」と、五枚目表八行目の「一〇万」を「一〇万円」と、同末行の「履行準備」を「履行着手」と、五枚目裏二行目から三行目の「二、〇〇〇株」を「一、〇〇〇株」と、同四行目の「大同製鋼」「二、〇〇〇株」を「大同製鋼」「一、〇〇〇株」と、六枚目裏一行目の「同月」を「同日」と、同四行目の「履行の準備に着手」を「履行に着手」と、七枚目表四行目の「営んで現在に至つている」を「営んでいた」と、同裏九行目の「九月二二日」を「九月一二日」と、八枚目表六行目の「損害賠償をする」を「損害賠償を請求する」と、同裏八行目の「求める」を「求める(但し、控訴人前田は右反訴を取下げた。)」と、九枚目表一二行目の「各本人尋問」を「本人尋問」とそれぞれ訂正し、原判決添付目録の末尾に「換地、同町五四番一六、宅地三七坪一六」を加える。)であるから、これを引用する。

(被控訴人の主張)

控訴人ら主張の、原判決六枚目裏八行目の「被告西畑」から七枚目表一二行目の「言い出し」までの事実を認める。

参加人は、控訴人前田から昭和三九年九月二四日代物弁済により同人の持分を取得し、大阪法務局天王寺出張所同年一〇月二三日受付第三〇、八六八号の所有権移転登記を受けたので、被控訴人は参加人に対し、右登記の抹消登記手続を求める。

(控訴人西畑、同前田の主張)

菊治郎、被控訴人間の売買は、控訴人西畑、同前田の占有する土地の部分については、原判決六枚目裏八行目から七枚目裏八行目までの事実により明らかなように、隣人である同控訴人らに不当の損害を与えることを目的としてなされた非論理的な行為であるから、民法九〇条に違反して無効である。

控訴人西畑、同前田は坪当り二万円で買取る意思表示をしていたのであるから、被控訴人がこれより低い一坪一万七千余円の割合で売渡を受けたことは、被控訴人が菊治郎に対し、同人の登記の知識に乏しいのを利用して詐術を用いたことを示している。

処分禁止の仮処分に違反して行為がなされても、その行為は仮処分債権者に対する関係で対抗できないだけであつて、行為の当事者である仮処分債権者とその相手方との間では有効であるから、被控訴人は仮処分債権者である地位に基づいて控訴人西畑、同前田に対し、その所有権移転登記の抹消登記手続を請求することはできない。

(参加人の主張)

参加人が控訴人前田から昭和三九年九月二四日代物弁済によりその持分を取得し、被控訴人主張の登記を経由したことは認める。

控訴人らの、原判決六枚目表二行目から七枚目裏一〇行目までの主張と同一の主張をする。

被控訴人の主張によれば、被控訴人は株式を売却して昭和三三年六月二一日に七四、八八五円、同月二三日に五四、一一六円を得、同月二六日親類から五〇万円を借受けたというのであつて、売買代金に支払うべき金員は被控訴人の手元にはなかつたのであり、株式の売得金は手附に充当したはずであるから、被控訴人が同年七月一日までになお三〇万円を調達して中野司法書士事務所に残代金八〇万円を持参することは、有り得ないことである。被控訴人が右同日中野事務所におもむいたのは、登記の申請に必要な書類を尋ねるためであつた。

単に代金の調達をしたとか、履行の催告をしたとかいうだけでは、履行の準備に過ぎないのであつて、履行の着手ということはできない。被控訴人は本件売買において履行に着手したものではない。

参加人は、控訴人前田からその持分を取得したのであるから、被控訴人、控訴人前田との間において、参加人が右持分を有することの確認を求める。

(証拠関係)(省略)

理由

当裁判所が被控訴人の本訴請求を理由があるとして認容し、控訴人西畑の反訴請求及び参加人の請求を失当として棄却すべきものとする理由は、つぎに付加するほか原判決理由記載と同一(但し、原判決九枚目裏三行目の「当事者間」を「被控訴人、控訴人ら、参加人の三当事者間」と訂正し、同三行目から四行目の「成立に争いのない」を「三当事者間に争いのない(以下単に成立に争いのないという。)」と訂正し、同四行目の「同一内容のもの」のつぎに、「但し、甲第二号証は被控訴人名下に印影があるが、乙第一号証はそれがない。」を、同一三行目の「被告等」のつぎに「及び参加人」を、一〇枚目表四行目の「但し、」のつぎに「証人井村芳一の各証言については」を、同五行目の「(一、二回)」のつぎに「、当審における証人井村芳一(一部)、西畑駒吉、前田登美子の各証言、被控訴人本人尋問の結果」を加え、一〇枚目裏一行目の「七日頃」を「七日」と、同五行目から六行目の「前掲証言ならびに被告本人尋問の結果の各一部」を「前掲井村の各証言」と訂正し、一一枚目表一行目の「(一、二回)」のつぎに「、当審における証人中野耕一の証言及び被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第九号証、同証言及び本人尋問の結果」を加え、同五行目の「手付金支払のため」を「手付金支払及び右支払による不足補充のため」と訂正し、同一三行目の「催告し」のつぎに「、右書面は翌三日菊治郎に到達し」を、一一枚目裏八行目の「被告等」のつぎに「及び参加人」を加え、同九行目の「被告西畑」から一二枚目表二行目の「争わないところ」までを「控訴人ら及び参加人主張の、原判決六枚目裏八行目から七枚目表一二行目までの事実は、三当事者間に争がないところ」と訂正し、一二枚目表四行目の「原告本人尋問の結果」のつぎに「(第一回)、当審における証人西畑駒吉、前田登美子の各証言の一部、被控訴人本人尋問の結果」を加え、同四行目の「菊治郎」から八行目の「有していたこと、」までを削り、一二枚目裏八目行から九行目の「ばかばかしく」を「はかばかしく」と、同一一行目の「証人井村」を「原審及び当審証人井村」と訂正し、一三枚目表四行目の「禁止されるが、」のつぎに「当時」を、同裏二行目の「被告等」のつぎに「及び参加人」を加え、一四枚目表三行目の「及び前田」を削り、同一二行目の「同被告等」を「被告西畑」と訂正し、同一三行目の「免かれない」のつぎに「(控訴人前田はその反訴請求を取下げた。)」を加える。)であるから、これを引用する。

一、乙第一〇号証から第一三号証までの各一、二、丙第一号証は、右認定を左右するに足りない。

二、控訴人西畑、同前田は、菊治郎、被控訴人間の売買は同控訴人らの占有する土地の部分については、民法九〇条に違反して無効であると主張するが、被控訴人が右控訴人らに損害を与えることを目的として売買を締結したことは、これを認めるに足りる証拠がないのみならず、原判決引用理由一(三)によれば、むしろ本件売買は右のような目的でなされたものでないことをうかがうに十分であつて、右控訴人らの主張は理由がない。

三、控訴人西畑、同前田は、同控訴人らは坪当り二万円で買取る意思表示をしていたのに、被控訴人がこれよりも低い単価で買受けたことは、被控訴人が詐術を用いたことを示していると主張するので考える。

原審(第一回)及び当審証人西畑駒吉、当審証人前田登美子の各証言によれば、当初菊治郎から右控訴人らに対し坪当り二万円で売買の交渉があつたことが認められるが、原判決引用理由一(三)によると、菊治郎が被控訴人に対し本件土地を代金九〇万円(坪当り一万七千余円)で売渡すに至つたのは、値段の折合いが付かず話が延引しているうち、菊治郎が借金の返済に迫られ、これを売り急いだためであつて、被控訴人が詐術を用いたことによるものではないことが明らかである。右控訴人らの主張は理由がない。

四、控訴人西畑、同前田は、処分禁止の仮処分に違反してなされた処分行為は、仮処分債権者に対する関係で対抗できないだけであつて、行為の当事者間では有効であるから、被控訴人は仮処分債権者である地位に基づいて、右控訴人らに持分所有権移転登記の抹消登記手続を求めることはできないと主張するので判断する。

被控訴人が単に仮処分債権者である地位に基づいては、右控訴人らに対しその所有権移転登記の抹消請求権を有しないことは所論のとおりであるが、本件においては、被控訴人は、本件土地が自己の所有に属するものであることに基づいて、被控訴人申請の仮処分登記に遅れて登記がされた控訴人らの持分所有権取得は、被控訴人に対しその効力を対抗することができないものであることを主張し、自己の所有権と合致しない権利関係の登記である右持分所有権移転登記の抹消を請求するというのであつて、単に仮処分債権者である地位に基づいて抹消を求めているのではない。右控訴人らの主張は理由がない。

五、参加人は、被控訴人が八〇万円を持参して中野司法書士事務所に行つたことは有り得ないことであると主張するが、被控訴人が右金額を調達して中野事務所におもむいたことは既に認定したとおりである。

参加人は、被控訴人が昭和三三年七月一日中野事務所に出向いたのは、登記の申請に必要な書類を尋ねるためであつたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

参加人の主張は理由がない。

六、参加人は、単に代金の調達をしたとか、履行の催告をしたとかいうだけでは、履行の着手ということはできないと主張するので検討する。

単に代金の調達をしたこと、あるいは履行の催告をしたことの一事だけをもつてしては、いまだ履行の着手ということができないことは所論のとおりであるが、買主が履行期後、代金を用意したうえ売主に対しこれと引換えに履行を催告したような場合は、民法五五七条にいわゆる履行の着手があつたものと解するのを相当とする(昭和三〇年(オ)第九九五号、同三三年六月五日第一小法廷判決、民集一二巻九号一、三五九頁参照)。

原判決引用理由一(一)(二)によると、被控訴人が菊治郎に対し、八〇万円を準備してこれと引換えに所有権移転登記手続をなすべきことを催告し、二回にわたり催告当時右引換え給付義務について既に履行期が到来していたことが明らかである。

参加人の主張は理由がない。

七、成立に争がない丙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、参加人が控訴人前田から昭和三九年九月二四日代物弁済によりその持分を取得し、被控訴人主張の登記を経由したことを認めることができる。

参加人が右持分取得をもつて被控訴人に対抗し得ないことは、先に述べたところにより明白である。

そうだとすると、被控訴人の本訴請求はすべて理由があるので、これを認容し、控訴人西畑の反訴請求及び参加人の請求は失当として棄却すべきものであるといわねばならない。

したがつて、控訴人らの本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

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